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広島高等裁判所 昭和24年(う)703号 判決

被告人

高橋昇こと

藤井昇

主文

原判決を破棄する。

本件を山口地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人辻富太郞の控訴趣意第二点について。

金銭の費消行爲をもつて犯罪となす橫領罪は、通常一回の費消毎に一罪が成立するのであるから、原判示日時当時における犯罪行爲を判示するには、その行爲が同一罪質であり、手段方法等において共通した分子を持つものであつても、その各個の行爲の内容を一々具体的に判示し、更に日時、場所等を明らかにすることにより一の行爲を他の行爲より区別し得る程度に特定し、もつて少くとも各個の行爲に対し、法令を適用するに妨げなき限度に判示することを要するものといわねばならぬ(昭和二十三年(れ)第七六三号昭和二十四年二月九日最高裁判所大法廷判決参照)。しかして今原判示別表について見るに「子供出産用衣類代として二千円」「藥代として三百円」「煙草副食代として七百円」を消費したというのは、その日時及び費消場所が各別に掲げてあるのとその費途に鑑み各項目費毎に各一度の費消橫領があつたものと認定したもののようでもあるが原判決の法律の適用を見ると「犯情重しと認める第二の罪の刑に法定の加重をなし」といつているところから見ると原判示第二の橫領の事実を單純一罪と認定したかのようにも認められる。それにも拘らず原審各回公判調書の記載を調べても、特にこの点に関し審理をした形跡が認められない。原判決は結局審理を盡さぬ違法があつてその結果判決に影響を及ぼすべき事実の誤認があるか法律の適用を誤つた違法があつてその違法が判決に影響を及ぼすべきものといわなければならない論旨は理由がある。

(弁護人辻富太郞の控訴趣意第二点)

原判決は第二に於て被告人は昭和二十四年二月頃佐藤正人より米沢太助及び中野淸次郞に金三千円の支拂方を依賴されてこれを受取り保管中擅に二月初旬より同年三月初旬までの間字部市内において別紙一覽表記載のように自己の用途に費消橫領したとなし、別表には

回数

費消日時

費消内訳

費消金額

費消場所

自二月初旬至四月初旬

子供出産用衣類代

二〇〇〇、〇〇

字部市

藥代

三〇〇、〇〇

右同

煙草副食代

七〇〇、〇〇

右同

と記載している。それで費消日時を本文では二月初旬より三月初旬としながら別表では二月初旬より四月初旬とし事実が確定しないのみならず右別表の日時、内訳、金額の示す通り例へば藥代三百円は一時に費消したものとは見られないが果して然らばそれを具体的に判示すべきものであるに拘らずこれをしていない、加之保管中の或る数量の金員を数回に費消する場合はその都度該金額について橫領罪が成立するものであるが原判決第二事実は右の通り併合罪と解しているものの如くであるけれども之が擬律においては犯情重しと認める第二の罪の刑に法定の加重をするとなし併合罪に非ず單純一罪としている、從て原判決の此の部分は事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明かであり又法律の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすこと明かである。

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